ECプラットフォームBASEの子会社BASE BANKにて金融事業の立ち上げをしているyabebeです。自分自身、仕事とは全く別に、趣味レベルで色々なC向けFinTechサービスアイデアの妄想にふけっているのですが、今回はCASHを筆頭に2017年頃から生まれた新しいFinTechサービス(特にC向け)を観察する中で感じた3つの変化についての仮説を整理してみました。
- 割引現在価値のUX・サービスデザインへの適用
- 価値交換のリアルタイム化
- 価値の交換手段の多様化
1. 割引現在価値のUX・サービスデザインへの適用
ファイナンスを学ぶと必ずでてくるのが割引現在価値(Discounted Present Value)の概念です。ファイナンスを勉強したことがない方でも、直感的に理解することができる理論ですが、わかりやすい例で説明するならば、今の10,000円と1年後の10,000円、どちらが価値が高いか、などといった例がよく使われます。
現在価値PVは、将来価値FVを割引率 i で n期分割り戻した値になることを上の公式は示しています。割引率 i が一体なんの値をとるのかという議論はファイナンスの専門書で学ぶとして、i が0より大きい場合、現在価値は将来価値よりも大きくなるはずです。それも期間 n が長ければ長いほど、価値の振れ幅も大きくなります。つまり、未来の価値は現在の価値よりも相対的に小さいということになります。
今、C向けのFinTechサービスをみるなかで感じているのは、消費者の持つこの割引率 i がより大きくなっているのでないかということです。言い換えれば、将来よりも今の価値の方が相対的により重要になりつつあるということ。そしてそのための多少の割引は厭わない層が増えているということです。
この変化を如実に表しているのは、即現金化サービスや後払いサービスだと考えられます。BANK社がリリースしているCASH、TRAVEL Nowそれぞれビジネスモデルやユーザーの費用負担の構造は全く違いますが、大きな傾向として、ユーザーは"今、手元にある現金"を非常に重視しているという仮説を持っていることが考えられます。
メルカリとCASHを比較して、売るというUX自体がアップデートされたのがCASH。というような考え方ももちろんあると思います。しかし、あくまで両者をファイナンス的にみて感じるのは、なぜメルカリで売れば何倍もの価格で売れるのに、CASHに出すのかということです。そこには確実に現金化するスピード、キャッシュフローを早めるためならばある程度の費用負担をよしとするような消費者像を描くことができると私は考えています。
いったいなぜ割引率 i が大きくなっているのかという議論は更にいくつもの要素が絡み、複雑なのでまたいずれまとめていきたいと思います。
2. 価値交換のリアルタイム化
2つめの仮説は、1つめの仮説と似ていると感じるかもしれませんが、より広い範囲を含有しているのがこの「価値交換のリアルタイム化」です。
最近流行がきている給料前払いサービスを考えた時に、即現金化サービス同様に消費者の少額資金ニーズに対するソリューションとして捉えることができるかと思います。一方で別の側面をみてみると、働いた分の給与をリアルタイム(により近しいタイミング)で得ることができるサービスと表現することもできるかと思います。
働いた分の報酬を得る、究極的には1秒単位で変化しているであろう値が、現実の様々な制約(会計であったり、通貨、あるいは法律含めた社会的、技術的プロトコル)の元、最適解を求め効率的な仕組みを構築してきたのが私たちの世界です。今起こっているのは、テクノロジーを通じたこの制約のアップデートであり、前提条件が異なれば自ずと求められる最適解が変わっていくのが自然なわけでしょう。
上記を省みると、給与前払いサービスだけではなく、同じような「価値交換のリアルタイム化」がFinTech外にも別の形できていることに気づきます。サブスクリプションモデルです。
サービスの買い切りではなく、使った分/使う分だけの対価を支払うという基本コンセプトは、先ほどと同様に取引をより即時性を持たせる、本来的な形へと向かっている途中の姿なのではないかと私は考えています。
給与前払いとサブスクリプション、両者は全く異なるビジネス/枠組みですが、共通項として取引単位をよりミクロに、取引の所要時間をよりインスタントにする方向性をもっています。つまり価値交換の微分化と言ってもいいかもしれません。今後の消費者向けFinTechにおいても同様の意図を加味することで新しいサービス体験を創ることができるのではないかと思い妄想にふけるわけです。
3. 価値の交換手段の多様化
「Priceless お金で買えない価値がある、買えるものはマスターカードで。」
最近はあまりみなくなってしまいましたが、MastercardのCMを覚えている人は多いのではないでしょうか。この「お金で買えない価値」の部分こそ、今まさに現実に起こりつつある変化についての3つめの仮説です。
これまでの枠組みでは、価値 = 価格 = お金の恒等式が成り立っていました。(少し大げさかもしれないですが。)価格は価値の記号として、お金は価値の交換手段として発展してきましたが、この等式が崩れつつあるように感じることが多いです。
BASEが提供しているショップ自身がファンから資金調達できるSHOP COINやクラウドファンディングサービス、CAMPFIREのpolca、他にも最近は様々なスタートアップが比較的小さいコミュニティー間での価値の流通を支えるようなサービスを提供しているのをみます。そこで観察されるのは、価値 ≠ 価格、価値 ≠ お金といった不等式ばかりな気がしています。
これまで価値交換の手段はお金によって独占されていましたが、例えば感謝、応援、共感など、インターネットとソーシャルの融合によって価値として認められる代替手段がでてきたのではないだろうかと考えてみました。今後の消費者向け金融サービスでは、いかにお金ではない価値交換手段を取り込むことができるか、というのが1つのポイントになるのではないかと思います。
最後に。
以上、最近、私自身がもっているC向けFinTechサービスついての3つの仮説を簡単に紹介させていただきました。BASE/BASE BANK社で金融事業を立ち上げたり、週末に消費者金融やクレジット産業周り、C向けのFinTech、リテール金融について考えを巡らせる中で、これはそうだろう、結構強く思っている仮説でした。
~追記~
現在私は、Crezitという新しいFinTechスタートアップを立ち上げております。是非金融や信用の領域に興味がある方は気軽にご連絡いただければ嬉しいです。