初めて金融事業を立ち上げてみた学び

初めて金融事業を立ち上げてみた学び

Tags
FinTechBASE
Published at
December 31, 2018
Status
公開
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このPostは2018年12月にnoteにて投稿したものをリライトした内容になっています。

GEからBASEへ転職し、新しく金融事業の立ち上げをやらせていただいた1年を振り返りました。

事業責任者として、サービス立ち上げにおける重要なこと、初期のチームアップ、スタートアップでの動き方、様々な学びから抜粋して書き認めます。

目次

  • 自己紹介Learning Agilityの大事さ
  • 開発やチーム以前に検証すべきことやその方法に知恵を絞るべき
  • 必要なコミュニケーションチャネルを絞ること
  • プロダクトアウトとマーケットインのバランス感覚
  • 事業解像度の上げ方/財務三表のモデルを組むことの重要性
  • 戦は全部勝たなくてもいい。
  • Day 1

自己紹介

はじめに少し自己紹介です。BASEで金融事業を作っている矢部です。

大学在学中に国際金融機関で働きたいと思い、アメリカに留学したり、現地経験という意味でケニアでのマイクロファイナンスプロジェクトに携わったり、ルワンダでちょっとした事業の立ち上げをしたりしました。卒業後、数ヶ月のニート(と言う名の暗中模索期間)を経て、GEという会社に拾われまして、ファイナンスの幹部育成プログラムに所属していました。そこでは北アジア(日韓台)のエネルギー関連事業のファイナンス業務に従事していました。

コーポレートファイナンスの仕事の中で感じた課題感もあり、退職してSMEs向けのファイナンスサービスで起業しようとしていました。ぶらぶらと横浜の地元製造業へヒアリングしたりしているのと同じタイミングでBASE BANKの立ち上げを知り、事業概要に”ファクタリング”と書いてあったこともあり、なにか参考になるかもと話を聞きいったのが入社のきっかけでした。

というのも、当時は請求書管理を起点にしたSMEs向けのオンラインファクタリングサービスを考えていたからです。当時のBASEは子会社BASE BANKは作ったものの(下記記事参考)、やること自体まだ決まっていないような状態だったと記憶しています。ただ、鶴岡さんと話してみて、確かに目指してるベクトルとか同じような気がしたのもあり、その流れで入社、立ち上げをやらせていただくことにしました。

金融事業/BASE BANK立ち上げの学び

Learning Agilityの大事さ

今年3月に入社しまして、まず驚いたのはミーティングは2回しか行われていなかったことでしょうか。新子会社の箱だけある状態で、中身はまだ何もない状態でした。ちょっとびっくりしたというのが正直な感想でした。

社長からのオーダーは「レンディング事業を立ち上げて〜」だったので、右も左もわからないなりにガムシャラに頑張ってみました。

当時の私はコーポレートファイナンスや金融全般については基礎的な能力はありましたが、特に各種業法や実務的な事業立ち上げついては無知同然でした。(多くのファイナンスバックグラウンドの人が当てはまると思います。)

どうやら貸金業というやつに登録される必要があるらしいと知り、一番最初の仕事は貸金業登録でした。入社して2週間で貸金業法について教本と市販書籍、業法規則を朝方まで読み込み一通りキャッチアップしました。幸いにも大変優秀で面白い法務メンバーのおかげもあり、5月には登録完了することができました。

ここで思ったのは、スタートアップってこういうものなんだろうとういうことです。今ならわかるのですが、プロジェクト始動して数ヶ月で金融業のライセンス取得までたどり着くのは大企業ではありえないスピード感だと思います。しかもそれをほぼ未経験のチームが実行していくわけです。

人間なので今の状態が最も注意がいってしまいがちですが、どういうスピードで変化していくのか、この時系列における変化率こそがスタートアップの優位性の源泉なのかもしれません。わからないことをいかに素早く学習していくか、Learning Agilityが要求される、そういうものなんだと理解しました。

開発やチーム以前に検証すべきことやその方法に知恵を絞るべき。

兎にも角にも、事業を作らなければいけないということで採用を頑張り始めました。正確な人数はあれですが、だいたいこの一年間で100人ほどの方と面談、面接させていただいたかと思います。

そこから採用させていただけたメンバーや、社内から指名ピックアップしたメンバーでチームができ、ビジネスモデルの変更、ファクタリングスキームの確定などを経て7月には本格的に開発はじめることができました。

ここまで入社から約5ヶ月。今振り返ると、なぜこんなにも時間がかかってしまったのだろうと考えずにはいられない部分も多いのですが、いかんせん何も知らない状態で、言ってみれば初めて金融機関を作っていたのだと思えば不思議なものです。当時の自分は本当になにも知らなかったんだなと改めて思います。

反省点としては、開発やチーム作りを始める前にもっと検証すべきことや、そのための方法が存在していた点でしょうか。リーンという概念は知っていたし、なんとなくわかった気になっていました。が、全く実践できていなかったと思います。

リーンの流れで言うと、FinTechプロダクトの開発におけるMVPをどう定義するかというのがレギュレーションの観点からも多くの事業者が悩んでいるところかと思います。Michael Seibelが言うように1ヶ月以上かかってもローンチできないものはMVPとは言えないし、検証すべき仮説や検証方法にもっと知恵を絞るべきでした。

ほぼ初めてのサービス開発でしたが、チームがモチベーション高く取り組んでいたこともあり大きな問題はなく進めていくことができました。12月にはなんとかYELL BANKをリリースすることができ、同時進行で進めている他の事業も着々と進行しています。BASEの金融サービスは事業ポートフォリオ化していくのが個人的には良いと思っていますが、それぞれ2019年にかけて本格的に事業を伸ばしていくフェーズに入ります。興味あるひとはぜひ連絡ください。

必要なコミュニケーションチャネルを絞ること

結果的にプロジェクト自体問題なく進んでいるのですが、その過程で頭を悩ますことは非常に多かったなと思います。特に改めてコミュニケーションの難しさについて考える機会が多かったです。社長とのコミュニケーション、部門間の調整、チーム、薄く関わってる人たちなど。

特にYELL BANKはBASEの一機能として提供されることもありステークホルダーの数がとても多かったです。それぞれとのコミュニケーションを最適にやれていたかというと、正直なかなかうまくできていませんでした。自分のコミュニケーションの方法を見直すこと、自分自身のキャパシティを考慮して、なるべくステークホルダーを広げすぎないようにすべきだなと反省しました。

スタートアップで例えるなら、シードでプロダクトがない段階で20人弱もの関わる人がいる、縦割りな部門が3、4つある、などの状況を改善する必要がありましたが、そこまで手を回せなかったのは完全に僕の実力不足でした。

プロダクトアウトとマーケットインのバランス感覚

鶴岡さんの身近にいて感じたことの一つとして、サービスを作る時に市場をみて作っていくのか、未来のあるべき姿をみてつくるのかのバランス感覚がとても重要だとということがあります。

一つ言われたのは、「あまり周りのことを気にせず作りたいものを作ればいい」ということ。もちろん未来がどうなるのか、ユーザーがどんな課題をかかえ、どういう体験をできるようになるべきなのかを考えた上ですが、目の前の些細な変化に追われる必要性はないという意図だと解釈しています。

マーケティングでよく使われるクリシェですが、Henry Fordの、"人々に何が欲しいか聞いたら、もっと速い馬が欲しいと答えていただろう"というものがあります。“If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses."

教科書で知っているような当たり前の概念も、実際のサービス作りにおいて意識することは難しいかったです。

顧客が抱えている課題を解決していくのがスタートアップだと思いますが、必ずしも課題に気づいていない場合もある、更にその解決方法について知ってることも珍しいのでしょう。ならば自分たちでその新しいデファクトスタンダードになるような未来の解決方法を描き、社会実装していくほうが大事なんだと改めて考えることができました。

事業解像度の上げ方/財務三表のモデルを組むことの重要性

事業立ち上げをしてきて、明確に事業の解像度があがったタイミングがいくつかありました。特に事業計画を書いている時に一番あがったなと思っています。これについては、手嶋さんが力説している通りです。

加えて、金融ビジネスの特徴としてBSを使うということがあります。普通の事業の場合、キャッシュに気をつけつつ基本的に事業数値とPLをみていればいいかもしれませんが、資金提供する金融ビジネス、特に自社のバランスシートを使う場合、ここをいかにコントローラブルにするかは重要です。キャッシュアウト => BS => PLにヒットさせる、といった動きが基本になる中で、F/Sを動きをそれぞれ関連づけて考えることは事業を立ち上げる上で非常に重要だと感じました。項目など全て揃える必要はないですが、PL/BS/CFの全てを連動させてモデルを書くことでかなり細かいところまで事業を理解できる気がします。

戦は全部勝たなくてもいい。

これは鶴岡さんに言われたことの一つで、もっとも響いた言葉かもしれません。テックブログで書かれているので参照します。僕がサービス立ち上げで他のチームとバチバチ喧嘩している時に同様のことをフィードバックしてもらいました。

それまでは小さな論点一つ取っても絶対に負けないようにロジックを組み立て自分が一番考え抜いて最適解を持っていくことに強い意識をもっていました。それはある意味、GEで教えてもらったExcecutionの姿勢やValue Addの考え方を踏襲していたからかもしれません。

しかし事業責任者としての価値の出し方は結局のところ最終的なアウトカムでしか評価できないのです。これはたぶん経営者でも同じなのでしょう。そうなったときに細かい論点を譲ってでも前に進め、最終的に自分が描いたゴールへ着地させる、あるいはそれを超えたものを実現することが重要と改めて気付かされました。

殆どの戦いは負けても良い 社会人になって一番の学びかもしれないですが、殆どの戦いには負けても大丈夫なんだなと思いました。 戦いとは、議論や意思決定のことを指していますが、最終的に成し遂げたい目標があったときに、その途中で訪れる論点を全て自分の思い通りにする必要もないんだなと。全ての勝負に勝とうとするにはあまりにも今の人生では短いので、全部の駒を取る事が勝利なのではなく、王将を取る事が勝利なのだとあらゆる場面でゲームをしっかり理解する能力を磨きたいものです。そして王将だけは必ず取りましょう。

Day1

基本毎日が新しい挑戦の1日目ですね。1年前に2018年のNew Year's Resolutionとして書いたんですが、これは2019年も同じです。日々とにかく小さくでもチャレンジを増やしていくこと、やるからにはベクトルは大きな変化に向かっていること、Day 2は死であること。クオリティをアップデートしてやっていきたいです。

総括

総じて、自分の実力不足を痛感する1年でした。いまいち成長したのかも正直わかりません。が、気持ちは変わらず強めなのでしっかりやってきます。来年は社会に大きな変化を起こしていきたいです。

~追記~

現在私は、Crezitという新しいFinTechスタートアップを立ち上げております。是非金融や信用の領域に興味がある方は気軽にご連絡いただければ嬉しいです。